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Terry The Lazy Bee
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放射能による神経系の障害
 放射能による影響は、甲状腺がんや白血病や出生異常・・・だけではない。
「病気」とされないもの(=したがって治療の対象とならないもの)もあるということを、この論文は示唆している。

 とくに留意すべきは、人格障害と知能指数の低下である。下に紹介した論文によると、子どもたちのIQは集団で10も低下している。チェルノブイリでの診察経験のある医師から私自身が直接教わった話しでは、これは確率的影響ではなく、また子どもだけに限られたことではない、程度の差こそあれ誰にでも起こりうる障害であるという。また、子どもを診察に連れてきた母親たちは、そろって「我が子は異常ではない」と否定し、診断結果を受け入れなかったという。

 子どもたちに尋ねられたとき、「放射能汚染は微量であれば病気にはならない。ただ君たちの知能指数がすこし下がる危険があるだけだから、心配しなくていいよ」などと言えるだろうか。
 なるべき人間になれなかった子どもたちの不幸は、だれが責任をとれるというのだろうか。

                ***

Annals of New York Academy of Science, 2009
“ Chernobyl:Consequences of the Catastrophe for People and the Environment “ から 抄訳

5.8.1 神経系の障害

 チェルノブイリの事故から22年経過した今日、低線量の電離放射線が中枢神経および自律神経の双方に様々な変化をもたらし、放射線による脳障害を促進する可能性があることは明白である。中枢神経系のいくつかの部分は、放射線による損傷を特に受けやすいのである。

5.8.1.1 ベラルーシ

 1.ゴメル県チェチェルスク地方で放射能レベル185ー2,590 kBq/㎡に汚染された地域において、妊娠中の女性、妊娠中の患者、新生児、および子どもたちを長期に渡って調査した結果によると、周産期(訳注:妊娠3ヶ月~分娩後1ヶ月)の脳障害の発生率は、事故前に比較して、2倍から3倍高かった。(Kulakov et al., 2001)

 2.すべての汚染地域において、神経系および感覚器官の疾病の罹患率は、有意に増加した。 (Lomat et al., 1996)

 3.汚染地域では、先天的痙攣症候群(癲癇)の症例が、事故後の最初の10年間において有意に増加した。 (Tsymlyakova and Lavrent’eva, 1996)

 4.1993年から2003年までに、神経系疾病および眼とその付属器官の罹患率が、 放射線被ばくをした両親から生まれた10歳から14歳までの子どもたちの間で際立って増加した。(National Belarussian Report, 2006)

 5.最も汚染がひどかった地域のひとつであるブレスト県ルニネスク地方では、子どもたちの神経系罹患率が増加した(Voronetsky et al., 1995)。この地域では、 2000年から2005年までに、子どもたちの間で精神障害が増加する傾向があった。(Dudinskaya et al., 2006)

 6.事故から10年後、汚染地域から避難したティーンエージャーの間では、精神系障害は、罹患率の高さで第2位であった。すなわち、検査された2,335人のティーンエージャーにおいて、罹患率は1,000人あたり331人であった。(Syvolobova et al., 1997)

 7.汚染地域においては、成人の神経障害は有意に高かった(31.2% vs 18.0%)。
16歳から17歳の高校生の間では、短期的記憶障害および集中力衰退が観察され、それらの症状の深刻さは、汚染レベルと直接的な相関があった(Ushakov et al. 1997)。

 8.汚染がひどかったゴメル県ナロフォリャ地方の農業機械オペレータ340人と、比較的汚染が少なかったミンスクの同様のグループ202人を比較すると、最初のグループは脳血管の病変の発生率が6倍も高かった(27.1% vs 4.5%、Ushakov et al., 1997)

 9.モギレフ県コツコヴィッチ地方は、Cs-137の汚染濃度が1,110kBq/㎡以上であったが、この地域の成人1,708人の神経系疾病罹患率は、比較的汚染が低かったヴィテブスク県で検査した9,170人より、顕著に高かった。 (Lukomsky et al., 1993)

 10.1991年から2000年までに、ベラルーシのリクイデータたちの間では、神経系と感覚器官の疾病が2.2倍に増加した。(Borysevich and Poplyko, 2002)

5.8.1.2 ウクライナ

 1. キエフ県ポレスク地方で放射能レベルが740ー2,200 kBq/㎡に汚染された地域において、妊娠中の女性、妊娠中の患者、新生児、および子どもたちを長期に渡って調査した結果によると、1986年以後、周産期の脳障害の発生率は、事故前に比較して、2倍から3倍高かった。(Kulakov et al., 2001)

 2.汚染地域における子どもたちの神経系疾病の発生率は、事故の2年後に際立って増加した。(Stepanova, 1999) 1998年までに、子どもたちの神経系および感覚器官の疾病は、1986年と比較して6倍に増加していた。(TASS, 1998) 1988年から1999年までの間のその他のデータでは、その10年の期間に神経系疾病は、子ども10,000人あたり2,369人から4,350人に、つまり1.8倍に増加したことが示されている。(Prysyazhnyuk et al., 2002)
 
 3.チェルニコフ県の汚染地域では、事故の7~8年後になって、疲労感の増大および知的能力の低下が中学校と高校において確認された。(Bondar et al., 1995)

 4.避難者の子どもたち70人の脳波波形(EEGs)のうち、その97%が大脳皮質および皮質下の構造的・機能的未発達を示した。つまり、これら70人のうちわずか2人しか正常なEEGsがなかったのである。(Horishna, 2005)

 5.妊娠中に放射線被ばくした子どもたちは、より多くの神経系疾病および精神的障害を有していた。(Igumnov et al., 2004; Table 5.45)

 6.汚染地域では精神的病気をもった子どもたちの数が増加した:1987年には発生率は1,000人あたり2.6人だったが、2004年までに1,000人あたり5.3人になった。(Horishna, 2005)

 7.神経系無力症および自律調整機能障害の発生率は、避難者の子どもたちにおいては、対照群と比較すると5倍以上高かった。(Romanenko et al., 1995a)
 8.放射線被ばくを受けた子どもたちのIQは、(そうでない子どもたちより)低かった(図 5.1)

1

 (図 5.1)プリピャチ市から避難してきた・放射線被ばくが
  ひどかった子どもたちのグループ(=Exposed)と、被ばく
  が少なかったキエフから避難してきた子どもたち(=Control:
  対照群)の知指数(IQ)の比較。
       
 9.妊娠16周から25周の間に子宮内で被ばくした子どもたちは、広範な異常を発現させている:

 ・脳の障害あるいは脳の機能不全に帰すべき精神異常および人格異常の
  発生率の増加(F06、F07)
 ・心理的発達異常(F80-F89)
 ・発作的状態(さまざまな頭痛 G44; 偏頭痛 G43; てんかん G40)
 ・身体表現性障害(F45.3)
 ・幼児期の行動障害および情緒障害(F90-F99)
     
2

 10.プリピャチ市から避難した高線量被ばくの子どもたちの知能指数(IQ)は、キエフ市からの被曝量の少ないこどもたちの知能指数に比べて、劣っていた(表5.46)
   
3
*pIQ : 動作性IQ、vIQ : 言語性IQ

 11.事故後の最初の6年間、特に1990年以降、成人の神経系の罹患に顕著な増加が見られた(表5.47)


4
   *Vasomotor dyscracia : 血管運動神経の障害
    
 12.神経系および感覚器官の罹患率が、汚染地域では、1988年から1999年の間に、3.8ー5倍に増加した。成人の避難者のあいだでは、これらの病気は、人口全体よりはるかに頻繁に発生した。(Prysyazhnyuk et al., 2002) 1994年において、成人とティーンエージャーおよび避難者における神経系の病気は、汚染地域のおける罹患の10.1%を占めた。(Grodzinsky, 1999)

 13.リクイデータの93%から100%は、神経病理学的な障害があり、同時に器質的な精神異常の徴候を圧倒的に示していた。(Loganovsky, 1999, 2000) 現地の精神医学上の分類やICD-10、DSM-IV の基準に従うと、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)や、心身症的・器質的・分裂病的な人格異常などが、記録に残されている。(Loganovsky, 2002)

 14.ランダムに選択された100人のリクイデータのうち、26人が、慢性疲労症候群(CFS)の診断基準を満たしていた。慢性疲労症候群は、リクイデータたちにとって、事故の結果として最も広範囲に及ぶ症状のひとつであるかもしれない。(Loganovsky, 2000b, 2003) さらに、CFSの発生率が有意に(p<0.001)低下したにもかかわらず(1990年-1995年 65.5%から、1996年-2001年 10.5%)メタボリック症候群X(MSX-心臓疾患の危険因子のグループ)は同じ期間に有意に(p<0.001)増加したのである(15%から48.2%へ)。CFSとMSXは、その他の病変へとつながる最初のステージであると考えられ、CFSは、神経変成、認知障害、精神神経系障害へ変化していく可能性がある。(Kovalenko and Loganovsky, 2001; Volovik et al., 2005)

 15~23 (略)

 24.1990年以来、チェルノブイリ居住禁止区域の人たちのあいだでは、一般の人たちと比較して、統合失調症の発症率が有意に増加している(1990年のウクライナにおいて、人口1,000人あたり、5.4人 vs. 1.1人)(Loganovsky and Loganovskaya, 2000)。汚染地域で生じた放射線被ばくは、情報処理に関わる大脳皮質-大脳辺縁部を分子レベルで損傷し、もともと統合失調症の傾向のあった個人においてはその引き金を引き、あるいは統合失調症に似た障害の原因となり得るようなダメージを脳に引き起こした。(Loganovsky et al., 2004a, 2005)

 25.1995年から1998年まで、チェルノブイリから150Km以内に住むリクイデータ、林業および農業作業者について、長期に渡ってその認知能力の調査が行われた。被ばくしたグループ(特にリクイデータ)の認知の正確さおよび効率は、4年間の平均レベルで、対照群(チェルノブイリから数百Km離れた健康なウクライナ人)に比べて、有意に低かった。長期の分析の結果、認知の正確さや効率とともに、すべての被ばくグループはその4年間を通して精神運動性もスローであることが明らかにされた。これらの発見は、電離放射線の急性被ばく・慢性被ばくの両方から、脳機能に障害がもたらされたことを示唆している。 (Gamache et al., 2005)

5.8.1.3 ロシア (略)

5.8.1.4 その他の諸国

 1.エストニア チェルノブイリ以後、自殺は、エストニアに居住するリクイデータたちの死亡原因の第一位であった。(Rahu et al., 2006)

 2.リトアニア リトアニアの一般国民と比較して、チェルノブイリのリクイデータたちのあいだでは、自殺を理由とする年齢調整死亡率が増加した。(Kesminiene et al., 1997)

 3.スウェーデン 1983年から1988年までに生まれた562,637人のスウェーデン人についての包括的分析によると、事故継続中に胎児だった群は、事故より少し前に生まれた子どもたちの群および事故の少し後に生まれた群より、学校の成績が劣っていることが明らかにされた。妊娠後8~25周の間に被ばくした子どもたちの群においては、この成績低下が、他の群より大きかった。さらに、より多くのフォールアウトがあった地域で生まれた生徒たちの間では、より多くの障害が見られた。フォールアウトの影響が最も大きかった8つの自治体では、高校入学資格者が有意に(%で3.5ポイント)低かった(Almond et al., 2007)。これらの発見は、排卵後8~25周で被ばくした(日本の)ヒバクシャたちのIQが低かったことと符号している。(Otake and Schull, 1984)

5.8.1.5 結語

 汚染地域における多数の人々特にリクイデータたちのあいだで神経系の疾患が発生していることを証明したデータが次々と積み上がってきて、 神経系は放射線による損傷に対して抵抗力があるという従前の主張は論破されている。以前の放射線防御対策では無害と考えられていた相当少ない量の放射線ですら、生体組織にはっきりと分かる損傷を与える結果となっている。汚染地域における現在の放射線レベルが数えきれないほど多数の人々の中枢神経系に障害を与えていることは、明白である。
 汚染地域に住む多くの住民たち、特に胎児の段階で被ばくした人たちおよびリクイデータたちは、認知、短期記憶、集中力の持続期間、動作にかんする判断力、夢見などが悪化している。これらの異常は、大脳半球の深部、すなわち間脳、前頭葉・側頭葉の深部、後頭頂部の損傷と関係している。低線量被ばくは、自律神経に損傷を与える。広島・長崎の原爆の炸裂をくぐりぬけた母親から生まれた子どもたちの45%に知的発達の遅延がみられるという事実は、ひじょうに厄介な懸念すべき問題となっている。(Bulanova, 1996)
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